【ご遺族投稿】~過労死等のない社会を願って~長男、真生(しんは)を亡くして~

安部宏美

2025年10月31日の福岡過労死防止対策推進シンポジウムで遺族体験を夫と共に、お話しさせていただきました。

長男、真生(しんは)を亡くして6年が過ぎました。2019年11月、真生は30歳になったばかりでした。川崎市に本社がある東芝デジタルソリューションズのシステムエンジニアだった真生は、過重労働が原因で自死に追い込まれました。現在、妹と弟は、30歳を超えてしまいました。東芝デジタルソリューションズは、今年4月、東芝と統合されました。年月は過ぎ、周りは変化していくのに、いつもあの時に戻ってしまいます。真生が、生きていたら、どんな人生だったのだろう、私の人生も違っていただろうと思いめぐらしながら日々を送っています。

真生は、入社5年目、2019年の4月、本社に異動となり、これまでのシステムの保守運営からシステムの開発業務に従事することとなり、異動のことをとても前向きにとらえ、生き生きした表情で話してくれていました。6月から厚労省老健局が発注した介護に関するシステム開発の業務に従事することとなりました。この案件は、先に受注した会社がキャンセルしたため、2ヶ月遅れで息子の会社が受注したもので、厚労省の発注業務にも問題がありました。納期は年度末と変更されることはなく、さらには受注後の大幅で無理な変更を迫られ、何度も見積もりをし直さなくてはならず、上司に相談するも十分なサポートも得られず、長時間労働で睡眠時間もほとんどとれず、精神的にも追い詰められていきました。その後、いくつもの担当業務を抱え精神的にも追い詰められていき、10月に入ってからは胃の痛みで通院もしていたようでした。

労基署から開示された専門医師意見書には、「11月中旬ごろに『うつ病』を発症し、同月16日の自殺は当該精神障害によって正常な認識、行為選択能力が著しく阻害された希死念慮等の病的心理のもとでなされた自殺であった可能性が高いと判断する」とありました。うつ病を発症してから5~6日ほどのことだったということです。発症してからでは、間にあわないのです。こんな働き方、働かせ方をしてはいけないのです。そして、これは、会社の組織や体制、周りの人の配慮が適切であれば、絶対に防ぐことができたことだと思っています。

何年たっても息子を失った悲しみと苦しみは癒えることはありません。会社に対しては、初めの数年は、怒りと不信感でいっぱいでした。しかし、会社との話し合いを重ねていく過程で、会社が風土を変えようとする取り組みを進め、私たち遺族への対応に誠意が感じられ、命を落とした真生への敬意も感じられるようになり、心は救われたように思います。息子が選び誇りをもって働いていた会社ですので、会社の発展と安心して働ける職場となってほしいと願えるようにもなりました。労災が認定され、会社からの謝罪があり、原因究明と再発防止について話し合いを重ね、最低3年間、年に1度、再発防止の取り組みの報告会を対面で行うことを約束し2022年5月に和解合意し、その後も会社側と直接対面で話し合える場が継続してあったことは、大きな意義がありました。

2022年に和解合意した際、会社のHPにニュースリリースされ、現在も東芝のHPより見ることができます(2026年4月現在)。決して消してほしくありません。このニュースの最後に以下のように書かれています

『※再発防止や働き過ぎ防止の強化は東芝グループ全体で取り組んでまいります。』

労働災害の再発防止の取り組みについて | ニュースリリース | 東芝デジタルソリューションズ

https://www.global.toshiba/jp/company/digitalsolution/news/2022/0701.html

今は、この言葉を信じていきたいし、原因究明と再発防止の上に発展があり、あらゆる社会の課題にも通ずることであると思います。厚労省の発注業務に関してもある程度改善されてきていると聞きました。

しかし、仕事が原因で健康を損ねたり命を落としても、労災や公務災害となかなか認定されなかったり、認定されても会社等がその責任を認めず、裁判となっているケースが現在でも多く、また、声を上げられずにいる当事者の方々も少なくありません。こんなことでは、過労死等を防ぐことは難しいと思います。原因を究明し、その上で反省と改善をしていかなくてはならず、それは、会社だけの問題ではないはずです。私は、当初、息子の死は会社のせいだとばかり思っていました。しかし、それは、発注元の官公庁の発注業務にも問題がありました。そして、働き方に関する世間の人々の認識、社会構造も関係していると考えるようになりました。自分が当事者となって深く考えたり、感じるようになりました。また、遺族体験を話す機会や勇気をいただいたのは、私と同じ思いを体験した家族の会の方々と出会い、過労死弁護団や支援団体の方々との繋がりがあったからこそです。

「声を上げなければ、なかったことにされてしまう」という危機感もありました。

過労死が起きている現実を世の中の方に知ってもらい、こんな思いをする人をなくしたい、微力ではありますが、自分にできる活動をすることで、私は自分の生きる意義を見出そうとしているのだと思っています。

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