2023年(令和5年)9月1日、厚生労働省は、「心理的負荷による精神障害の認定基準」を改正しました。
精神障害の労災認定基準は、2011年(平成23年)12月に策定され、それ以降、業務による強い心理的負荷が認められるかどうかは同基準に基づいて判断されることになりました。基準が明確になった反面、硬直的な運用がされるとかえって労災認定がされにくくなる懸念がありました。
その後、2020年(令和2年)に、パワーハラスメントが追加されるなどのマイナーチェンジがありましたが、大きく変わることなく10余年が経過し、認定基準の改正が議論されるようになりました。
そこで、今回の改正に先立ち、全国過労死を考える家族の会や全国過労死弁護団連絡会議等の団体は、より分かりやすく、より被災者に寄り添う内容にするため、同認定基準の抜本的な改正を求めて様々な意見を出しました。
結論からいえば、私たち過労死を考える家族の会等が求めたレベルの改正には至りませんでした。しかしながら、着実に前進した部分もあります。今後は、前進した部分を、実際の運用の中で活かし、よりよい認定実績を積み重ねることが重要です。
私たちは、ひきつづき、国に対し、認定基準の抜本的な改正を求めていくとともに、労災申請の現場では、改正された認定基準の運用が、少しでも被災者、労働者の有利なものとなるように、実践的な活動を続けていきます。
【認定基準改正のポイント】
厚労省がまとめた改正のポイントは、以下の3つです。
➀ 業務による心理的負荷評価表の見直し
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- 具体的出来事「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」(いわゆるカスタマーハラスメント)を追加
- 具体的出来事「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」を追加
- 心理的負荷の強度が「強」「中」「弱」となる具体例を拡充(パワーハラスメントの6類型すべての具体例の明記等)
※コメント 大きな変更はありませんでしたが、具体例の追加や総合評価の視点に具体的な内容が加筆されている点がいくつかあり、今後の申請に有用です。パワーハラスメントの範囲はさらに拡大されました。
② (既存の)精神障害の悪化の業務起因性が認められる範囲を見直し
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- 悪化前おおむね6か月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による強い心理的負荷」により悪化したときには、悪化した部分について業務起因性を認める
※コメント 悪化といえるか否かを一律に判断することは困難であるとされました。安易に悪化していないという判断をされないよう注意が必要です。
③ 医学意見の収集方法を効率化
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- 専門医3名の合議により決定していた事案について、特に困難なものを除き1名の意見で決定できるよう変更
※コメント 主治医の判断が以前にもまして重要になります。主治医の協力を求める活動が肝要です。
(弁護士 星野 圭)