20年ぶりに脳・心臓疾患の労災認定基準が改定されました

厚生労働省は、2021年(本年)9月、脳・心臓疾患の労災認定基準を改定しました。

これまでの認定基準は、2001年(平成13年)12月に定められたものでしたが、「約20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、最新の医学的知見を踏まえて」(厚労省)、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」の検証等を経て改定されることになりました。

Q. そもそも認定基準とは何ですか?
A. 労災認定は、労働基準監督署長が行います。労基署長の公正・迅速な判断を確保するため、どのような出来事があれば業務と脳・心臓疾患との間に医学的な関係があると言えるかということについてある程度定型化したものとして認定基準が定められています。この認定基準を満たすときには、労働災害として認められることになります。
被災者が過労で亡くなったのではないかとご家族が思う場合、過労死として労災認定を受けられるかどうかについては、この認定基準に沿って検討することになります。

Q. 今回の改定ではどのような点が変わったのですか?
A. 厚労省が公表した認定基準改正のポイントは次の①~④の4点です。
①長期間の過重業務の評価に当たり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
⇒従来の長時間労働の水準(※1)には至らないがこれに近い時間外労働+一定の労働時間以外の負荷(※2)が、業務と発症との関連が強いと評価することが明示されました。

  • ※1 労働時間(時間外労働)に関する水準は改定前の基準が維持されています。
    発症前1か月間に100時間または2~6か月間平均で月80時間を超える時間外労働は、発症との関連性は強い
    発症前1~6か月間平均で月45時間を超えて長くなるほど関連性は強まる
    発症前1~6か月間平均で月45時間以内の時間外労働は発症との関連性は弱い
  • ※2 労働時間以外の負荷要因の例
    拘束時間の長い勤務・休日のない連続勤務・勤務間インターバルが短い勤務
    不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務・出張の多い業務 など

Q. 時間外労働が月80時間に満たないが夜勤や出張の多かったAさんのケースではどう考えられますか?
A. 労災と認定される可能性があります。
時間外労働時間の量、期間、時間外労働時間以外の負荷要因を総合的に評価して労災と認定される可能性があるので、勤務実態をよく確認しましょう。

②長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し
⇒勤務間インターバルが短い勤務、身体的負荷を伴う業務などが評価対象として追加されました。

Q. 「勤務間インターバルが短い」とはどういうことですか?
A. 勤務間インターバルとは、終業から始業までの時間をいいます。
この基準は、睡眠時間の確保の観点から設けられており、勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の場合、労災となる可能性が高まります。ただし、勤務間インターバルが短い勤務の有無だけではなく、インターバル時間、頻度、連続性等についても検討されます。

③短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
⇒発症前おおむね1週間に継続して深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合等が例示されました。

④対象疾病に「重篤な心不全」を追加
⇒心停止に加えて心不全が追加されました。ただし、心不全の程度は様々であるため、入院による治療を必要とする急性心不全を念頭に「重篤な」心不全に限定されました。

今回の認定基準の改定では、従前の認定基準では「医学的に十分な解明がなされていない」(から慎重な評価を求めるという趣旨)などと消極的な表現がなされていた部分を削除し、様々な事情を積極的に検討するよう求める内容となった点で、労災認定が認められやすくなった部分もあります。
また、時間外労働時間数についても、認定基準の水準に至らない場合でも、労働時間以外の負荷が認められるときには労災と認定されうる(上記①)と明記されたことで、実質的には時間外労働に関するいわゆる過労死ラインが下がったとも考えられます。

認定基準に関する課題はいくつか残っていますが、まずは新たな認定基準を活用して多くの方が労災認定を勝ち取っていくことが重要だと思います。

(今回改定された部分も含まれますが、認定基準の改正すべき点について、詳しくは、過労死弁護団全国連絡会議ホームページの「弁護団提言」をご覧ください。)

(弁護士 星野 圭)

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