ひときわにぎやかな通りのいつものビルの前。
亡き母に連れられて何度もそこで宝くじを買った。
彼女の売り方は素敵だったから。
宝くじをトランプのように広げ、お客さんにくじを選ばせる。
その時に必ず満面の笑みで
「幸運は自分でつかむもの。」
そう声かけてくれる。
おまじないのようなその言葉が好きで、彼女からくじを買い続けた。
ビルは新しく建て替わり、路面電車もなくなった。
それでも彼女の宝くじ売り場だけはかわらない、街の当たり前の風景。
17年前、夫が過労で脳出血を起こし倒れた。
後遺症が残り夫は働けなくなった。子どもは幼かった。
夢も希望も無くなった。
あの時も一枚だけ、彼女からくじを買った。
「幸運は自分でつかむもの」ただそう言われたかっただけかもしれない。
くじは当たらなかった。でも私は今、笑顔でくじを買っている。
当たり前の仕事にどれだけの人知れない努力があったことか。
人は普段考えない。
それがなくなる寂しさを知ったときに
人はその人の当たり前の仕事に感謝する。
どんな仕事にも誇りと人へ感謝と愛を持つことの大切さを彼女から教わった。
「ここでくじを買う最後のお客さんたちみんなが当たりますようにと、いつも以上に念を込めているよ。」
そういう彼女の笑顔が忘れられない。