高校教員の過労死(公務災害認定)『あきらめるな、笑って』が先生の教え


私の夫は福岡県県立高校の教師で、過労により命を失いました。
教師の仕事にやりがいと誇りを持ち、生徒とともに歩み続けた夫。
その優しく家族思いの夫が、2002年(平成14年)1月の寒い夜、打合せ中に突然倒れそのまま意識を失いました。

まだ41歳の働き盛りの頃です。

そしてそれから15年の間、一度も意識を回復しないまま、2017年3月3日静かに息を引き取りました。

倒れる前年度には鼻出血がとまらず高血圧と診断されていました。体調回復のため次年度は負担のかかる3年担任ではなく他学年に変わりたいとの希望を出していました。
しかし配慮なされることなく、変わらず過剰な仕事が続きました。

受験を控えた3年生担任英語科の主任英検面接委員各種委員会女子バレーボール部顧問企画振興主任数々の任務を兼務し、常に仕事の締め切りに追われていました。
自宅に持ち帰り深夜までほぼ毎日仕事をしていました。

倒れた当日も、前日から夜通し学年末考査の問題を作成していました。
顔色は青白くひどく疲れていました。それでもセンター試験にのぞむ生徒たちを激励するため、早朝6時半には自宅を出発。

連続3時間の授業。授業が終わるとすぐに「海外ホームステイ保護者説明会」、さらに女子バレー部の引率のため開催地のホテルへ、ホテル到着後の夜9時からの打ち合せの最中、脳出血を起こし突然倒れそのまま意識を失いました

倒れた日の夫の荷物にはパソコンがあり、学年末考査の試験問題が途中の状態。
締め切りは間近にせまり徹夜してもなおかつ終わらぬ仕事を抱え底なし沼にはまっていた夫
責任感の強かった夫はセンター試験までは持ちこたえたものの、とうとう限界となり発病したのです。

私は、医師からCT画像を見せられ「今後、意識が戻ることは難しい」と宣告されました。
変わり果てた夫の姿とその側にいるまだ小学校1年生7歳の娘と幼い4歳の息子。
どうして生きていったらよいのかと目の前が真っ暗になりました。
ですが悲しむ間もなく介護と子育て、生活のために働かなくてはならない日々が始まりました。せめて意識さえ戻ればとあらゆる手を尽くしましたが実りませんでした

夫が激務の末の発病であることを確信し、公務災害請求をしましたがすぐに「通常の日常の範囲内」と判断され公務外とされました
その後審査請求し苦労の末、認定。認定までには3年もの月日がかかりました。
その間も、明日の命の保証のない夫の病状は決して穏やかではなく気の休まる日など一日もありませんでした。

公務災害がとれるかどうかもわからない不安、医療費や介護にかかる費用が生活にのしかかる。私自身も精神的、肉体的にも過労となり自宅で倒れ救急車で搬送されたこともありました。

私は公の場所で夫について語るなどという心の余裕など全くありませんでした。できることならそういう話題とはかけ離れていたいとさえ思っていました。なぜなら一度こうなった大切な夫は二度と元にはもどることはなく、その事実は家族皆の心にゆき場のない怒り悲しみとともに大きな傷となりずっと消えることがなく、この話題に触れる、語るということはその心の傷に塩を塗る作業だからです。
その私の心を変えたきっかけは夫の葬儀でした。

15年たっても教え子やかつての同僚の方々がたくさんかけつけて涙を流しお参りしてくださいました。あらためて、病室に置かれていたお見舞いのノートを読み返しました。

そこには教え子達が書いた英文のメッセージが見舞いの都度、繰り返されていました。
「NEVER GIVE UP」
「KEEP ON SMILING」
「あきらめるな、いつも笑って」
それは英語教師である夫が生徒たちに必ず伝えるメッセージでした。

夫が一所懸命した仕事は確かなもので、無駄なことは何一つない
ほぼ植物状態でありながら15年も生き続け教師であり続けたことは夫なりのメッセージだったのではないのか。
「あきらめるな」、そう夫はずっと発信していたのに、私は諦めていたのではないか。そう気づいて私は諦めるのをやめることにしました。

地方の1教師の過労死を単に「残念なこと」で終わらせるのではなく、すべての教師の方々が命を落とすことのない働き方を、皆で考えてもらいたい。夫の死がそのきっかけになるのなら、彼に代わって私がこれからも話さなくてはならないと思いました。

教師は通常の日常に多岐にわたる業務をこなすことに追われています。
勤務時間はあってもなきが如く残業は当たり前持ち帰り仕事もあたりまえ

早急に教師の通常の日常の過重な勤務、多岐にわたる業務の改善などを抜本的に見直すことをしなければ、教師の過労死を防ぐことはできません。
夫の死を教訓とし無駄にしないで欲しい。その想いを胸に、私は声を挙げ続けます。

福岡家族の会代表 安徳 晴美

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