「心理的負荷による精神障害の認定基準」が一部改正されました

「心理的負荷による精神障害の認定基準」が一部改正され、業務による心理的負荷評価表への「パワーハラスメント」が追加されました。梶原弁護士(福岡第一法律事務所)が解説します。

1.「業務による心理的負荷評価表」とは?

過労自死や過労によるうつ病発症など,心理的なストレスにより精神障害を発症して死亡や休業などに至った場合(業務による心理的負荷を原因とする精神障害)の労災認定基準として,厚労省は,2011年(平成23年)12月に「心理的負荷による精神障害の認定基準について」を定めており,労基署はこの認定基準に基づいて労災認定行政を行っています。

そして,この認定基準には,別表1として「業務による心理的負荷評価表」というものが設けられており,同表には,「具体的出来事」の類型ごとに,それらの出来事がもたらす心理的負荷の強度やその具体例が記載されています。

労基署の労災認定においては,各事案において, 発病前おおむね6か月の間に生じた出来事が,この別表1「業務による心理的負荷表」の 「具体的出来事」のどれに該当するかを判断するという作業を通じて,心理的負荷の「強度」が評価され,労災として認められるかどうかが判断されます
(強度が「弱」,「中」,「強」の内,「強」と評価できる場合に労災と認めるというもの)。

なお,この認定基準及び別表1は,厚労省が行政の内部通達として定めたものであり,法律ではありません。

この基準に当てはまらないからといって労災にならないと諦める必要は全くありません
(労基署で否定されても後に裁判で覆ることもあり得ます)。

ただし,実際の労災認定実務はこの基準に基づいて運用されていますから,無視するわけにはいきません。

2.2020年5月になされた「認定基準」の一部改正

厚労省は,2020年(令和2年)6月施行のパワーハラスメント防止対策の法制化に伴い,職場における「パワーハラスメント」の定義が法律上規定されたことなどを踏まえ,同年5月に,この認定基準の別表1「業務による心理的負荷評価表」の改正を行いました(「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について」・令和2年5月29日付け基発0529第1号)。

3.今回の改正のポイントは?

これまでの「業務による心理的負荷評価表」においては,上司や同僚等から,嫌がらせ,いじめ,暴行を受けた場合には,同表の「具体的出来事」の類型の内,「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又 は暴行を受けた」の出来事で評価していました。

今回の改正で,同表の「具体的出来事」に次のような変更が加えられました。

① 出来事の類型に「パワーハラスメント」が追加された

「出来事の類型」に,「パワーハラスメント」が追加され,その「具体的出来事」として「上司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」が記載されました。
心理的負荷の強度が「強」(労災認定される強度)の具体例として,以下が記載されました。

・上司等から,治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

・上司等から,暴行等の身体的攻撃を執拗に受けた場合

・上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合
▸人格や人間性を否定するような,業務上明らかに必要性がない又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃
▸必要以上に長時間にわたる厳しい叱責,他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など,態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

・ 心理的負荷としては「中」程度の身体的攻撃,精神的攻撃等を受けた場合であって,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかった場合

* ここでいう「執拗」とは,一度でも心理的負荷の強いパワーハラスメントがあれば評価対象とするという趣旨であるというのが厚労省の説明です。

② 評価対象のうち「パワーハラスメント」に当たらない暴行やいじめ等についての表記の変更

評価対象のうち「パワーハラスメント」に当たらない暴行やいじめ等について,「具体的出来事」の「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」の名称を 「同僚等から,暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」に修正して,パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行やいじめ,嫌がらせ等を評価する項目として位置づけました。

心理的負荷の強度が「強」(労災認定される強度)の具体例として,以下が記載されました。

・ 同僚等から,治療を要する程度の暴行等を受けた場合
・ 同僚等等から,暴行等を執拗に受けた場合
・ 同僚等から,人格や人間性を否定するような言動を執拗に受けた場合
・ 心理的負荷としては「中」程度の暴行又はいしめ嫌がらせを受けた場合であって,会社に相談しても適切な対応がなく,改善されなかった場合

4.パワーハラスメントに該当するかどうかの判断に迷ったら

このように「業務による心理的負荷評価表」の項目に「パワーハラスメント」が設けられました。これに該当するかどうかの判断に迷うこともあるかもしれません。

そのようなときは,私たち家族の会やこのサイト内でご案内している相談窓口に是非ご相談ください。

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